コーチングや脳科学、心理学などを勉強したことのある人はスコトーマという言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
スコトーマとは簡単にいえば人が物事を認識するうえで無意識的に見落としてしまう『盲点』のことです。
スコトーマは誰にも存在し、スコトーマがあるからちょっとした勘違いが起きたり、認識がズレたりするエラーが生じます。
スコトーマを理解することによって、普段自分が無意識的に見落としている要素を理解し、物事を偏見なく、全体を見通す視野が身につきます。
そこで本記事では
- スコトーマの概要
- スコトーマがかかる原理やパターン
などを紹介していきます。
目次
スコトーマとは
冒頭にお伝えしたようにスコトーマとは日本語で直訳すると『盲点』という意味です。
スコトーマは元々『眼科医が使う医学用語』として使われていました。
人間は視覚情報(眼に見える世界)を神経を通して脳内でイメージを具現化することで映像として認識しています。
つまり、普段我々が視ている世界は『眼から取り入れた視覚情報を脳で再現しているもの』なのです。
しかし、身体の構造上、神経の束に遮られて『視覚情報として認識できない箇所』があるのです。
この『盲点となるポイント』を眼科医はスコトーマと呼んでいました。
近年ではこの言葉が心理学やコーチングなどでも持ち入れられるようになりました。
先述した物理的な盲点だけではなく、心理的作用として発生する『心理的盲点』として用いられるようになったのです。
心理的盲点のスコトーマとは
心理的盲点で定義するスコトーマとは人が無意識的に見落としてしまう盲点のことをいいます。
これがどういうことかというと私たちの脳は『自分にとって重要な情報』しか取り入れず、『重要性の低い情報』を必要のないものと判断して全て削ぎ落とし、重要な情報だけを処理する機能があります。
極端にいえば脳は『自分にとって重要な物』だけ認識するようにしているということです。
重要性でないと判断し、削ぎ落とされてしまった情報がスコトーマともいえます。
スコトーマを体感する方法
スコトーマを簡単に認識できる例があります。
紙とペンを用意し
- いつも身につけているもの
- 持ち歩いている物
などの絵を『実物を見ないで記憶だけで書いてみる』のです。
現代人にとって特に分かりやすいのが『スマートフォンのホーム画面』です。
スマートフォンを持っている人であればスマートフォンのホーム画面は毎日、人によっては数分に一回のペースで見ているはずです。
では、自分のスマートフォンのホーム画面の『どの位置にどのアプリが配置されているか』を完全に覚えているでしょうか。
ホーム画面にアプリをフルで入れると20以上のアプリを表示できます。
ある程度の期間をスマートフォンを使用していると何百何千と、ホーム画面をみているので『全てのアプリの位置』を丸暗記していてもおかしくないわけです。
しかし、実際にチャレンジすれば分かりますが、ほとんどの人がせいぜい3〜5ぐらいのアプリの位置しか覚えていません。
毎日視ているはずなのに少ししか覚えていないというのはよくよく考えたら不思議ですよね。
この時『覚えていたアプリ』のほとんどは『使用頻度が高いアプリ』、つまり自分にとって日常的に関心があって重要性が高いアプリのはずです。
逆に位置を覚えていなかったアプリは使用頻度が低く、自分にとってさほど重要性の高いアプリではないはずです。
これがスコトーマによって起こる作用です。
これらの重要性の低いアプリはホーム画面をみてもスコトーマによってなかなか認識されません。
たまに使用するにしてもホーム画面のどこに配置してあったから探すことになります。
このように日常的に見慣れたものほどスコトーマがかかりやすくなります。
スコトーマを認識するにはこの他にも、腕時計を日常的に使用しているのであれば『時計の文字盤』を紙に書いてみる方法もあります。
ほとんどの人は時計の文字盤の具体的なデザインが思い浮かびません。
時計を視るのは『現在時刻』が重要な情報であって『時計のデザイン』は重要ではないからです。
スコトーマが起きる原理
先述したように、スコトーマは脳が『重要性の低い情報』として認識したものを除外し、盲点になって見落としてしまう現象です。
では逆に『脳にとって重要な情報』の基準とはなんでしょうか?
脳にとって重要な情報とは主に以下の点があげられます。
・興味、関心、必要性を感じているもの
・自分のアイデンティティに沿うもの
それぞれ解説していきます。
強い信念や先入観を持っているもの
『強い信念や先入観を持っているもの』とはいわば固定概念のようなものです。
例えば、家の鍵や財布などいつも持っているものが見当たらなくて、散々探してみたけど見つからず、実は手元に持っていたなど気の抜ける体験をしたことは一度はあると思います。
自分がボケているのかと思ったかもしれませんがよくあるこの現象も一種のスコトーマです。
『あれ、鍵がない・・・どこにあるの・・・どうしてないんだろう」
と心のなかで思ったり、呟いていたりすると脳が『鍵がない』という現実をつくろうとします。
つまり、『鍵の存在を証明する情報』を認識しないようにフィルタリングしてしまうのです。
また、経験によって強く信じていることはよりスコトーマの影響を受けることになります。
例えば、『世の中は悪い人で溢れている』という信念を持ってしまうと、街中などで悪い人をよく見かけるようになったり、悲劇的なニュースばかり見たりするようになります。
興味、関心、必要性を感じているもの
『興味、関心を持っているもの』も人は重要なものという認識を持つようになります。
例えば女性であれば、ファッションやヘアスタイル、美容関係などに関心があるから街中を歩いていても、その手の広告や行き交う人々の見た目などの情報を見つけやすくなります。
女性同士で会ったりすると相手の髪型やファッションの変化にいち早く気づきます。
しかし、男性だと女性並に関心がある人は少ないです。
男性がデートで女性の外見の変化に気づかず、パートナーの機嫌を損ねてしまうことがよくあります。
これはお洒落に関心がない男性側にとってはむしろ認識することが難しいことなのです。
自分のアイデンティティに沿うもの
人は『自分はこういう存在である』と信じていることに沿った情報を優先的に認識しようとします。
アイデンティティによって視える世界が変わる有名な実験があります。
とある海外の研究チームが自称、『自分は幸福だと思っている人』と『自分は不幸だと思っている人』を一定数集めて実験をしました。
実験の内容は新聞のなかにある『特別なメッセージ』を見つけることでした。
そのメッセージはとあるページに目立つように一面に大きく表示されており、答えを見つけることは非常に簡単です。
落ち着いて、1ページずつチェックすれば誰でも簡単に気づくことが出来ます。
しかし、実験の結果は面白いものでした。
『自分が幸福だと思っている人』のほとんどがメッセージを見つけることができ、『自分が不幸だと思っている人』のほとんどはメッセージを見つけることが出来なかったのです。
メッセージの内容は『このページを見つけることが出来たら、賞金を贈呈します』というものです。
『自称、不幸な人』がなぜメッセージを見つけることが出来なかったのかというと、メッセージを見つけてしまうと『不幸な自分』といとアイデンディティに沿わないからです。
『セルフイメージにそぐわない情報』にはスコトーマがかかってしまうのです。